愚痴・憎まれ口・無駄口・世迷言・独断と偏見・屁理屈・その他言いたい放題!
その7.≪窮鼠、猫を噛んでも、結局食われる≫
先日、高校生の息子から、面白い話を聞きました。学校で数人の友人
と世間話をしていて、息子が「窮鼠、猫を噛むってこともあるから」
と言った途端、皆ポカンとして息子の顔を見るので、「窮鼠・・・」
の意味を説明してやったそうです。すると皆、何だかシラケた感じで
「フ〜ン、でもオッ君(奥田君)って、シッタカ(知ったかぶり)み
たい・・・」と言うので、「そんなことないよ、家ではお父さんもお
母さんも、よく諺や格言を使うよ。皆の家でもそうだろう?」と尋ね
ると、「ウウン、お父さんもお母さんも、そんな言葉、使わないよ。
オッ君ッチって、変な家族!」と言われたそうです。「僕ンチって、
変な家族なんだって!」と息子に言われて、僕も家内も思わず笑って
しまいましたが、それはチョッと寂しい笑いでした。そんな話は、今
に始まった事ではないので、別に驚きもしませんでしたが・・・ 。
諺や格言を沢山知ってるからと言って、別に偉い訳でもないし、確か
に余り使い過ぎると、「シッタカ」みたいで鼻につきますけど、適度
に使うと会話がスムーズに運ぶし、日本人独特の「暗黙の了解」で、
クドクドと説明しなくても、話の概要を解ってもらえると言う利点も
あります。ところが、息子の話の様子からも解るように、その「暗黙
の了解」とやらが、最近怪しくなって来つつあるようです。若者達が
使う「流行語」や「短縮語」を理解するには一苦労要りますが、僕達
が普段何気なく使っている言葉が、若者達に理解出来なくなって来て
いるのも、紛れも無い事実のようです。 。
言葉という生き物は、常に変化しているようですネ!一昔前は完全に
間違いだった「とんでもございません」や「全然大丈夫」なんて言葉
も、今ではスッカリ定着してしまったようですし、短歌や俳句も「字
余り」や「季語なし」が不思議でもなんともなくなっています。僕が
上京した時に一番苦労した「鼻濁音」を、今では東京の住民の半数以
上が使えないそうです。ついこの前まで大流行していた「超XXX」
という言い方も、最近はダサく感じるようになってきました。いくら
言語学的に誤りを指摘しても、そんなことはお構いなしにドンドン変
わって行くのが言葉ですし、言葉が変われば考え方も価値観も変わっ
て行くのが、当り前なのかもしれません。 。
サザンオールスターズの桑田さんがデビューした時、まだ若くて今よ
りズッと保守的だった僕は、「彼は、伝統ある美しい日本語の破壊者
だ!」と思いました。なんと唄っているのか聴き取れないような早口
で、文法的にかなり怪しい言葉を駆使して、「バ」を「va」、「ラ」
を「la」、「タ」を「tsa」と発音したりで、とにかく滅茶苦茶という
印象を受けました。でも今では僕は、桑田さんの大ファンなんです。
現在、最も多くの「掛詞」を駆使した歌詞を書いているのは、桑田さ
んじゃないかと思います。しかも日本語だけじゃなく、外国語も含め
た「掛詞」で、なかなか簡単には理解出来ないような、凝った歌詞の
レパートリーが沢山あります。また、いつも「va」「la」「tsa」と発
音している訳じゃなくて、言葉のニュアンスを的確に表現する為に、
わざと「バ」「ラ」「タ」と使い分けています。彼の思い切った歌唱
法によって、日本語でもロックが遜色なく歌えるようになった訳です
から、彼が現代邦楽の為に果たした功績は、非常に大きいと、僕は評
価しています。 。
僕が、「この頃の若者には、長唄や清元が『お経』のように聴こえる
らしいヨ!」と言っても、「また喜州さんの極論が始まった・・・」
と笑われてしまうんですが、それでは現在日舞の稽古をしている人達
100人を、キャリアも年齢も地域もランダムに選んでアンケートを
取ったら、多分驚くべき結果が出ると思います。例えば「現在お稽古
している曲の、題名と歌詞を知っていますか?」「江戸時代の文語調
の歌詞の意味が、理解出来ますか?」「『掛詞』が多用されています
が、どの言葉がどの言葉に掛かっていて、どんな効果を生み出してい
るか、解っていますか?」「舞踊会に行って、初めて観る踊りの歌詞
を、ヒヤリングだけで理解出来ますか?」などの質問に、どれだけの
「YES」が貰えると思いますか?特に最後の設問には、プロの舞踊
家である僕でさえ「YES」とは答えかねます。僕達の年代でさえ、
かなり聴き込まなければ理解できないような歌詞が、耳慣れない旋律
と歌唱法によって演奏されるのですから、若者達に「お経」のように
聴こえても、チットも不思議はありません。日本舞踊家も邦楽演奏家
も、このことはモット真剣に考えなければならないと思います。 。
「窮鼠が、いくら猫を噛んでも、結局食われてしまう」ことも、「ど
んなに塵が積もっても、絶対山にはならない」ことも常識になってし
まった今、古くて時代に合わない諺や格言は消えて行ってしまうので
しょうし、昔の「ことわざ辞典」には載ってなかった、「豚もおだて
りゃ、木に登る」なんていう新しい諺が、これからもドンドン生み出
されていくのでしょう。そんな風潮に眉をひそめながら、ひたすら美
しい日本語と伝統を守っていくべきなのか、新しい言葉を使いこなし
ながら、想像を絶する新時代の荒海に漕ぎ出すべきなのか・・・貴方
はどちらを選びますか?! 。
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